エラボトックスの適応と注意点
エラボトックスは、噛みしめたときに咬筋が大きく張り、下顔面の横幅を広く見せる方に向く治療です。本症例では、術前と術後1ヶ月を正面・斜位で比べ、咬筋部の張りと顎のラインがすっきりした経過を確認しました。
Medical Information
この記事について
- 執筆医・監修医
- 形成外科専門医 乜 也(にえ いえ)
- 監修日
- 2026年8月9日
- 公開日
- 2022年8月11日
- 実質更新日
- 2026年8月9日


Contents
目次
正面:術後1ヶ月で下顔面の横幅がすっきり
画像左が術前、右が術後1ヶ月です。術前は口角の外側から下顎角にかけて咬筋部の張りがあり、術後は左右ともこの部分の横幅が減って、顎先へ向かうラインがすっきりしています。
正面では、中央の顎先ではなく、その両側にある咬筋部の変化を比べます。左右の張り方は同じとは限らないため、安静時と噛みしめ時を分け、左右それぞれの輪郭を記録します。
咬筋の張りが主因の下顔面幅へ治療する根拠として、90日後に突出が2段階以上改善した割合はonabotulinumtoxinA群51.2%、プラセボ群2.2%で、下顔面幅の平均変化は-5.24mm対-0.04mmだったとの報告がありました(参考文献2)。
斜位:咬筋部の張りが減り、下顎縁が見えやすくなりました
画像左が術前、右が術後1か月の斜位です。術後は耳の前から下顎角にかけての咬筋部の張りが減り、下顎縁から顎先へ続く輪郭が見えやすくなっています。
正面だけでなく斜位を確認すると、下顔面の横幅と、下顎角付近の厚みを分けて追えます。本症例では1か月後の経過を示しており、その後の持続期間は製剤、単位、筋量、噛みしめの強さで変わります。
咬筋の張りを考える6つのサイン
咬筋の関与を考えるサインは、1固いものをよく噛む、2歯を食いしばる癖がある、3夜の歯ぎしりが強い、4歯科でマウスピースを勧められたことがある、5朝起きるとエラや首が凝っている、6エラが張っている気がする、という6項目です。
これらがあり、噛みしめたときに下顎角の前方で咬筋が大きく盛り上がる場合は、咬筋の緊張と筋量が輪郭に関わっている可能性があります。見た目の変化だけでなく、食いしばりによる筋負荷を和らげる目的も考えますが、歯の摩耗や顎関節症状がある場合は歯科評価やマウスピースも組み合わせます。
噛みしめ時に盛り上がる咬筋を治療対象とする理由として、A型ボツリヌストキシン投与後は4週の咬筋突出、筋厚、満足度がプラセボ群より改善したとの報告がありました(参考文献1)。
骨格・脂肪・皮膚のゆるみと咬筋の張りを分けます
エラの横幅が噛みしめ時に大きくなるなら咬筋の関与を考えます。安静時と噛みしめ時で輪郭がほとんど変わらない場合は、下顎角の骨格、皮下脂肪、ジョール、皮膚のゆるみが主因かを正面と斜位で確認します。
頬の脂肪が少ない方や、すでに頬こけ・皮膚のゆるみがある方では、咬筋を減らしすぎると影やもたつきが目立つことがあります。咬筋の厚みだけでなく中顔面のボリュームと下顎縁の支えも見て、必要な範囲に治療量をとどめます。
左右の筋量に合わせて製剤・単位・注入位置を決めます
診察では咬筋を噛みしめてもらい、前縁・後縁と最も張る範囲を触診します。笑顔に関わる筋へ薬剤が広がらない位置を選び、左右の筋量と噛みしめの強さに合わせて、製剤ごとの単位で配分します。
ボツリヌストキシン製剤は製品ごとに単位体系が異なるため、研究で使われた単位を別製剤へそのまま置き換えません。咬筋の美容目的は国内承認適応外であることを説明し、治療後は輪郭だけでなく、硬い物を噛んだときの疲れ、笑顔の左右差、頬こけやもたつきも確認します。
ボトックスビスタの国内添付文書では、承認適応は65歳未満の成人における眉間または目尻の表情じわで、咬筋の美容治療は含まれません。また、製品の単位は生物活性単位で、他のボツリヌス毒素製剤の単位へ換算できないと記載されています(参考文献3)。
Clinical View
診療で確認するポイント
- 安静時と噛みしめ時を正面・斜位で比べ、左右の咬筋の盛り上がりを触診して、骨格・脂肪・皮膚のゆるみによる横幅と分けます。
- 咬筋が主因なら、頬のボリュームと下顎縁の支えを確認したうえで、前縁・後縁を外さず活動の強い範囲へ、左右別に製剤固有の単位を配分します。
- 1か月前後に輪郭と咀嚼時の疲れを確認し、食いしばり、歯の摩耗、顎関節症状がある方は歯科評価やマウスピースも含めて負担を減らします。
Comparison
治療選択の比較
| 治療・対応 | 向く状態 | 向かない/慎重な状態 | 回数の目安 | ダウンタイム | 費用(税込) | 承認状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ボトックスビスタの咬筋注射 | 明瞭な咬筋肥大・左右差 | 骨格・脂肪・皮膚余剰が主因、咀嚼機能低下が懸念 | 1回後、1〜3か月で輪郭と機能を評価 | 内出血、咀嚼疲労、笑顔左右差、頬こけ、もたつき等 | エラ55,000円 | 製剤は国内承認品だが咬筋美容目的は承認適応外として説明 |
| コアトックスの咬筋注射 | 未承認製剤使用を理解し咬筋治療を希望 | 国内承認品のみ希望、禁忌該当 | 1回後、1〜3か月で評価 | 内出血、咀嚼疲労、左右差、頬こけ等 | エラ55,000円 | 国内未承認製剤。入手経路・代替・救済制度等を説明 |
| 歯科評価・マウスピース・経過観察 | 疼痛・歯ぎしり・顎関節症状が主、筋量減少を望まない | 美容的横幅を短期に変えたい場合 | 継続・必要時 | 装置の違和感、歯科治療固有のリスク | 歯科機関で確認 | 該当なし/歯科治療ごとに確認 |
費用の目安
- ボトックスビスタ/コアトックス共通 エラ55,000円。
製剤名、注入単位、国内承認・適応外の区別を説明します。
リスク・副作用・注意点
- 赤み、腫れ、内出血、痛み、頭痛が生じることがあります。
- 咀嚼疲労、噛む力の変化、笑顔の左右差、頬こけ、フェイスラインのもたつきが起こり得ます。
- 妊娠・授乳、神経筋疾患、併用薬等で適応を慎重に判断します。
咬筋美容目的は国内承認適応外で、製剤ごとの単位を単純換算しません。
Doctor Review
執筆・監修
執筆医・監修医: 形成外科専門医 乜 也(にえ いえ)
References
参考にした一次情報・ガイドライン
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咬筋肥大へのA型ボツリヌストキシン
研究デザイン: プラセボ対照無作為化試験の系統的レビュー・メタ解析 / 対象: 咬筋肥大へA型ボツリヌストキシンを使用した5件のRCT、合計536人 / 結果: A型ボツリヌストキシンは複数時点で咬筋突出を改善し、4週後に突出尺度3以下へ改善した相対リスクは名目48単位で5.25、72単位で3.66だった。咬筋厚の減少と満足度の向上も報告された。 / 限界: 咬筋厚の結果は研究間の異質性が大きく、製剤換算後の用量反応、最適な注入法、長期成績は確定していない。48・72単位を別製剤へ換算できない。
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咬筋突出へのonabotulinumtoxinA第III相試験
研究デザイン: 多地域・無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験 / 対象: 咬筋突出評価がgrade 4または5の成人376人(onabotulinumtoxinA 72単位283人、プラセボ93人)。310人が180日までの試験を完了 / 結果: 90日後に医師評価で2段階以上改善した割合は51.2%対2.2%、下顔面幅の平均変化は-5.24mm対-0.04mmで、改善は180日まで維持されたとの報告がありました。 / 限界: 明瞭な咬筋突出を対象に特定製剤72単位を用いた企業資金提供試験で、本症例の1か月時点、食いしばり症状、国内適応、他製剤の単位を直接検証していない。
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ボトックスビスタ注用50単位 添付文書
研究デザイン: PMDA公開の国内医療用医薬品添付文書 / 対象: 65歳未満の成人における眉間または目尻の表情じわ / 結果: 国内承認適応は眉間・目尻の表情じわであり、咬筋の美容治療は含まれない。製品の単位は他のボツリヌス毒素製剤の単位へ換算できず、妊娠・授乳、神経筋接合部疾患、他のボツリヌス毒素製剤投与中などの禁忌・注意が示されている。 / 限界: 添付文書は咬筋美容治療の有効性、単位、注入位置、治療間隔を示す臨床研究ではない。本症例で使用した製剤名と単位は確認できない。
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未承認医薬品等の情報提供
未承認・適応外使用の表示に関する公的資料。
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Cosmetic BoNT-A complications
24研究4,268注射セッションの安全性。
よくあるご質問
Q. エラボトックスが向くのはどのような方ですか?
噛みしめたときに咬筋が大きく盛り上がり、その張りが下顔面の横幅に関わっている方です。骨格、脂肪、皮膚のゆるみが主因の場合は、別の治療を検討します。
Q. 輪郭の変化はいつ分かりますか?
本症例では術後1か月で正面・斜位の変化を確認しました。咬筋の縮小は徐々に進み、製剤、単位、筋量、噛みしめの強さによって時期と持続が異なります。
Q. 食いしばりや歯ぎしりにも使えますか?
咬筋の緊張を和らげる補助治療として考えることがあります。ただし歯の摩耗や顎関節症状の評価、マウスピースなどの歯科治療に代わるものではありません。
Q. 頬こけや噛みにくさは起こりませんか?
一時的な咀嚼疲労が出たり、筋量が減ることで頬こけや既存のゆるみが目立ったりすることがあります。治療前の頬の脂肪量と皮膚のゆるみを確認し、左右の筋量に合わせて治療量を決めます。
Q. 国内で承認されている治療ですか?
ボトックスビスタは国内承認製剤ですが、承認部位は65歳未満の成人の眉間・目尻の表情じわで、咬筋の美容目的は承認適応外です。製剤名、承認状況、単位、費用を治療前に説明します。
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